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ご当地キャラの見る夢は

社員研修に最適! なぜ、「ゆるキャラ」の中に入ったビジネスマンは一皮も二皮もむけるか(PRESIDENT Online)

他にもゆるキャラご当地キャラに関する記事を読んでいて、こんな話を思いついた。


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「僕」


「おつかれさま」
「おつかれさまでした」
今日で「僕」の仕事は終わりだ。
世間で言うご当地キャラクター。
それが「僕」の役目だ。
いや、役目だった。
最近の流行りに漏れず、ご当地キャラクターとして「僕」が務めることになったのだけど、残念ながら「僕」では力不足だったようだ。
地元の特産品の販売応援に行っても、特に声をかけられることもなく、あまり写真を撮られることもない、いるだけだなあ、という感じで。
年間のグランプリに出てもみたけど、結果も振るわず。
駅前に朝から立ってみたりして、みんなでがんばってきたけれど、残念だったなあ。

先日、「新しい子」が来ることが決まった。
「僕」もその場に居合わせてみた。
うん、確かに「僕」より「新しい子」の方が魅力的だ。
特徴があって、みんなに好かれる。
そんな雰囲気を持っている。
「僕」なんかよりきっと上手く出来る。


じゃあ、「僕」はどうなるんだろ?


「次の日曜、最後だから」
課長の口から言い渡された。
「新しい子」が来てから、いや、来る前からそうじゃあないかなあ、ということは考えていたけど…本当にそう言われると…。

最後だけど、がんばってみよう。

いつもと変わらない、応援の日だった。

こうして、「僕」は最後の日を終えた。


何度か桜が咲いて、この地域には珍しく雪が積もった日もあった。


「新しい子」は地域の皆さんに受け入れられて、販売応援の時によく出かけていっていた。
「新しい子」目当てに来る親子連れも多く、特産品も売り上げがいい、という話を何度か聞いた。
また別の地域のご当地キャラクターのイベントにも呼ばれることもあった。
広報に載っている写真を見て、みんな楽しそうだなあ、と思った。


ある日「僕」は用事があって公民館へ行った。
懐かしいものを見た。
「僕」がデビューした時のポスター。
「僕」を中心に色んな人と一緒に撮ったポスター。
今でもお仕事で一緒になる人もいるし、もういない人もいる。
日に焼けてすっかり色あせてしまっているけど、それだけ時間が経ったんだなあ、と思わせる。
さっきまで打ち合わせをしていたおじさんに「僕」はこのポスター、まだあったんですね、と聞いてみた。
「ああ、何か、はがすにはがせなくってな」
「「新しい子」のポスター、こちらにも届いてますよね? これ…色あせているし、外しちゃいましょうよ」
「…何か外せなくってな…」
おじさんは携帯電話をにぎにぎさせながらポスターを見ていた。
「なんていうかなあ…何か俺達の初めての、こう、アピールポイントって言うのかな、その原点みたいな感じがして…なかなかな…」
苦笑しながらおじさんは話してくれた。
握っていた携帯電話を見ると、「僕」のキーホルダーがついている。
「僕」がデビューした当時、関係者に配られて、その後一般販売されたものだ。
まだ倉庫に二箱ぐらい残っているけど。
「ああ、これか。何か…これも手放せなくってね。付き合いが長くって、無いと落ち着かないというか…。倅にスマフォにしろ、といわれたんだけど、スマフォだとこれを付ける所がないじゃないか」
「それ、ぼろぼろじゃあないですか。まだ、在庫ありますから…」
「いや、これがいいんだ。なんかいっしょにやってきた、っていう…」
「…そうですか」
後、何か話したはずだけど、「僕」は覚えていなかった。


家に帰って晩酌をしながらテレビをつける。
缶ビールを開けながらチャンネルを回す。
旅行番組だ。
各地の温泉や名物、観光名所等の紹介をしているよくある番組だ。
今回は歴史のある割と有名な場所だ。
画面にカラフルな電車が映し出される。
レポートをする若い女優さんと年配の女優さん二人がかわいい、といってその電車を見てはしゃいでいる。
その電車に描かれているご当地キャラクターが出てきて、観光案内のお姉さんが紹介をする。
すごく特徴的な頭をしていて、グランプリでも上の方にいるご当地キャラクターだ。
以前、そこの出身の有名なスポーツ選手と並んで写真を撮っていたのを新聞で見たことがある。
また女優さん二人がかわいいといって大はしゃぎをしている。
電車の中にはそのご当地キャラクターと一緒に写真が撮られるように等身大のラッピングがしてあるようだ。
この後に泊まる旅館とそこの温泉、名産の料理が紹介される予定だ。
CMに入り、鉄道会社のキャラクターがICカードのCMをしていた。
このキャラクターも息が長いよな…。
色んなグッズが出ているのを駅で見かける。
2本目のビールを開けた。


「そう言われても…困るんですよ」
課長が渋った顔をして返答をする。
会議室。
今日はこの地域の大学生と話し合っている。

先日メールが届いた。

「学祭の演劇に「僕」を出演させて欲しい」

こういった内容が届き、打ち合わせの機会を持たせて欲しい、ということだった。
もちろん課長は「新しい子」が今のご当地キャラクターだから、「僕」の出番はない、と断ったのだが、学生がどうしてもお話がしたい、ということで場を設けることになった。
「新しい子」がご当地キャラクターになった、というのは会報等で出ていたけど、「僕」については何も触れられていなかったからだ。
脚本で「僕」が何カ所か出てくるシーンがある。
脚本を書いた学生さんも、「僕」をイメージして書いたので、「新しい子」では難しい、ということで、話が平行線だ。
もう既に1時間と半分が過ぎようとしている。
「僕」を必要としてくれるのは嬉しい。
けど、もう「僕」は…「僕」はどうしたいんだろ。
今になってだけど、声がかかったことは素直に嬉しい。
けどその役割は「新しい子」が担っているから…

脚本を書いた学生さんが言った。
「では、二人とも出てもらう、というのは難しいですか? 脚本は書き直しますので」
課長は渋い顔のままだったが、それで納得して打ち合わせは終わった。

三日後、脚本が届いた。

「僕」と「新しい子」は何度か練習に訪れた。
慣れない演技でなかなか上手くいかず、久しぶりに「僕」だったと思う。
スポットライトを浴びるって眩しいんだなあ…。
思わず避けちゃいそうだった。


当日。
出番が来たのは覚えている。

気が付いたら、終わっていた。

カーテンコールにも出て、何度も「僕」の名前も呼ばれた。
みんな覚えていてくれたんだ。
「新しい子」の方が呼ばれることは多かったけど。

舞台が終わってからは、「新しい子」と並んで演劇部のみなさんと一緒に写真撮影。
また観客の方からも個別に写真を撮りたい、と言われて一緒に撮ってもらったり、「新しい子」と二人でポーズを決めてみたり。
「僕」と一緒に撮りたい、という人も何人もいてくれた。
…あれ、「僕」がこんなに写真撮ってもらうのって、初めてじゃあなかったっけ?


そして…





エピローグ

「はい、カットォ~!」
プロデューサーの声で回っていたカメラが止められる。
今日は「新しい子」と「僕」はテレビ撮影に参加している。
朝から地元の名所と地元での有名店を何軒か回っての撮影だ。
「それゆけ!食いしん坊侍」という地方局の番組だ。
いくつかの地方局が持ち回りで作っていて、それぞれのご当地の名所や名産等を紹介していくという内容だ。
まずオープニングに独特のナレーターの語り口調で始まり、「食べるということは侍の真剣勝負と同じ心持で挑むからこそ~」というようなよくわからない謎のフレーズが語られる。
レギュラーを務めるのは、スーツを着たサラリーマン風の人、食いしん坊侍のご当地キャラ、ロッカー、ご当地名物を食べないと必殺技が出せないご当地ヒーロー等が、紹介するご当地に行ってご当地キャラクターと一緒にその地域を回るという内容だ。
地方局の番組だから、日曜の夜や地域によっては深夜という時間帯でそんなに有名では無いんだけど、ネット上では盛り上がりを見せる回がある。
例えば、この間はご当地ヒーローとボスキャラが名産品の飾り付け勝負を挑んだら、ボスキャラの方が出来が良くって、ヒロインの女の子にも「ちょっとこれは…」と言われてご当地ヒーローが落ち込んでいた。
別の日の放送では、ご当地ヒーロー達が居酒屋にずっといて、名所や名物の紹介をしていたんだけど、ロケの場所がずっと居酒屋で外に出ることなく最後のエンディングがカラオケだったりとか。
ボスキャラと戦闘員もいつの間にか一緒になって歌っていたし。
その他にも、関西弁の女の子がメロンパンと……なんだっけ…クリームパン……だったかな? は違うんやで、って関西弁でまくし立てていたなあ…。
コメントがどこか残念な感じのする女の子だった。
他にも年末の総集編でも色々なハプニング的な盛り上がりがある番組だった。
その番組に「新しい子」と「僕」は出演することになったのだ。

きっかけは、あの学祭の演劇だった。
参加した大学の演劇部は、学祭で実施した演劇を毎年動画投稿サイトに投稿していた。
今年のも再生回数も日々増えていて、SNSでも話題になったらしい。
元々演目が面白く、大学を選ぶ際にも演劇部目当てで入学する学生も後を絶たないとか。
今回「新しい子」と「僕」が出演していたことで話題にもなり、テレビ局の耳にも入って、番組のロケ地に選ばれたのだ。

課長は、「新しい子」だけで、と考えていたようだったけど、今回局の人から「僕」と一緒に、ということを言われて、しばらく悩んでいたけど、今後は二人でということに決めたようだ。
今では2回に1回は一緒に出かけることがある。
「僕」が「新しい子」の隣で幟を持って立つこともある。
そして「僕」に新しい衣装が追加された。
一つは段ボール箱で作った「僕」の全身が覆えるような「新しい子」の顔。
「僕」と「新しい子」の二人同時に出かけるときに使うことがある。
出番の時、アテンド役から呼び出しがかかった時、「僕」がその顔をかぶって出演する。
見に来てくれたお客さんから「違うー」とか言われて会場の空気が盛り上がってきた頃、「新しい子」が出てきて盛り上げる、という使い方だ。
もう一つは黒子の衣装。
これも「新しい子」が何かをしようとしている時に手伝うときにつける衣装だ。
「僕」は「新しい子」に比べて動きやすいので、何かを準備したり手伝うときに顔の前に黒い布をかけて、アテンド役に「黒子です。黒子がいますけど、黒子なので見えていません。」といって続けてもらう。
これが結構受けがよく、全身黒づくめにした黒子で出る時もある。
そして終わった後、顔の部分だけ外してアテンド役と一緒に「来てたの?」ととぼけたりとか。
地元の名産品のPRタイムが終わった後、写真を撮ってもらえるのは「新しい子」の方が多いけど、「僕」にもお願いされることが多くなった。


「はい、では最後の写真行きますー!」
エンディングには取材先でのいくつかのスナップ写真が流れて、最後にセピア色の集合写真が映る。
もう少ししたら半分しか日が見えなくなる夕暮れ時。
この町の丘にある夕日がきれいに見える公園だ。
ブランコの前に今回担当の食いしん坊侍が手招きして、「僕」と「新しい子」が並ぶ。
じゃあ「新しい子」が真ん中に…と思ったら、食いしん坊侍に右手を引かれて…僕が……センター?
「新しい子」も左側に来て大きくうなずいて、「僕」をセンターにする。
なんだか…こそばゆいな。
左右から動けないように腕をつかまれたので、負けないように強くつかむ。
右側を見た。
食いしん坊侍が大きくうなずく。
左側を見た。
「新しい子」が大きくうなずく。
僕も大きくうなずいて……。

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註:このお話はフィクションであり、実在の人物・キャラクター・地名等とは一切関係ありません。
  ええ、一切関係ないんですってば。


まあ、こんな話を思いつきましたw
最初は「広報に載っている写真を見て~」の辺りでちょっと加えて終わる予定でした。
いわゆるバッドエンドw
それが忙しさにかまけて暫く寝かせておくといつの間にかこんな話に。
某ドラマのアルコール飲料じゃあないけど、寝かせておいて良かったのかしらん、とw
改めて読むと、前半と後半雰囲気違うよなw
まあ、こんな話を思いつきました。


まあ多分いないと思うけど、無断転載とか無断使用とかは勘弁ね。